熱中症について学ぼう:深部体温と熱中症
深部体温と熱中症
臓器の温度である深部体温が上がりすぎると、危険な状態になります。深部体温と熱中症について知り、熱中症の予防・対策に活かしましょう。
深部体温とは
人の体温は、手足など体の中心から離れ、外環境の影響を受けやすい「皮膚温」と、脳や臓器など体の中心の機能を守るために一定に保たれる「深部体温」があります。
深部体温(中心温、芯温)は、脳や臓器など体の内部の温度で、内臓の働きを守るため、外環境の影響を受けにくく、一定に保たれています。
一方、皮膚温は、体の表面の温度で、体の中心から離れるほど外環境の影響を受け、一般的には深部体温に比べて低くなります。
健康な状態では深部体温は皮膚温よりも0.5℃から1℃ほど高く、37℃前後に保たれています。この温度が、体内で生命維持や生存活動のための内臓の働きを最も活発にさせる温度であるためです。
深部体温は体の中心の温度のため簡単に測ることが難しく、体温を測る際は比較的深部に近い体の表面部位として、腋下(わき)を測ることがあります。正確に深部体温を測る必要がある場合は、直腸、膀胱、鼓膜、血液などで測ります。
熱中症と深部体温の関係
熱中症は、高温多湿な環境や活動などにより深部体温が上昇し、その熱をうまく外に逃がすことができずに生じるさまざまな症状の総称です。
熱中症の症状の中でも、意識がもうろうとする、頭痛、吐き気、体のだるさ(倦怠感)といった症状が現れた場合は、深部体温の上昇により、脳や消化器官、肝臓に影響が出ている可能性があります。
また、通常37℃前後に保たれている深部体温の高温状態が続くと全身のけいれんや意識障害を起こすことがあります。呼びかけに反応しない、おかしな返答をする、まっすぐ歩けない、自分で上手に水分補給ができないなどの場合には、すぐに救急車を呼びましょう。
医療機関への搬送の目安として、未開封のペットボトルを渡し、自力でキャップを空け、しっかり飲むことができるかということがあります。これにより、手に力が入るか、口にペットボトルの先を持ってこられるか、むせずに飲めるかを確認することができます。うまくできない場合は、医療機関へ搬送しましょう。
救急車を待っている間にも涼しい場所で体を冷やすことで症状の悪化を防ぐことができます。
深部体温に関連する熱中症の予防・対策
特に暑い環境での運動や作業をする際には、深部体温を下げること、上げないことが大切になります。
冷たい飲み物を飲む
運動時など、体内で熱が多く発生する状況では、冷たい飲料(5℃~15℃)を飲むことが熱中症の予防・対策につながります。冷たい飲料は深部体温を低下させ、胃にとどまる時間が短いことで速やかに吸収されるため、深部体温が上昇している場合や、大量の汗をかき水分を失っている場合に効果的です。ただし、胃腸への刺激や負担がかかる場合もあるため、一度に大量に飲みすぎないよう注意してください。
軽い脱水状態の時にはのどの渇きを感じません。そのため、のどが渇く前、あるいは暑い場所に行く前・運動前から水分を補給しておくことが大切です。
また、大量に汗をかいた場合には塩分を失っていることもあるため、水分と一緒に塩分も補給するようにしましょう。
手のひらを冷やす
手のひらや足の裏、頬には、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう/AVA)と呼ばれる動脈と静脈を結ぶ血管の部位があります。この動静脈吻合は、快適な温度より暑ければ血管を開き、寒ければ血管を閉じることで、深部体温をコントロールしています。
そのため、運動時や運動後、暑さを感じる帰宅後などに、手のひら(可能であれば肘まで)を水に浸けるなどして冷やし、深部体温を下げることが、熱中症の予防・対策につながります。屋外であれば、冷たい飲み物のボトルを持つことも良いでしょう。
熱中症の応急処置としては、涼しい場所に移動し太い血管が流れている両側の首筋やわき、足の付け根など太い血管が体表近くにある場所を冷やして体温を下げる方法があります。その部分を冷やすのが難しい場合には、体表面にでている顔、両腕、足などを冷たい水で濡らしたタオルで拭いたり、手のひらを冷やしたりすることでも体を冷やすことができます。
暑熱順化をする
体を暑さに慣らす暑熱順化ができると、汗のかきはじめや皮膚血管拡張による熱放散が早くなり、深部体温が上昇しにくくなります。暑熱順化をした体は、同じ体温でもかく汗の量が多くなりますが、汗に含まれる塩分が減少しナトリウムを失いにくくなっているため、熱中症になりにくい状態になります。
これら深部体温に関する対策とあわせて、熱中症の予防・対策も確認しましょう。
深部体温の上昇(高体温)による熱中症の応急処置と治療法
深部体温の上昇によって脳や臓器に影響が出ると、呼びかけに反応しない、おかしな返答をする、まっすぐ歩けない、自分で上手に水分補給ができないなどの熱中症の症状が出る場合があります。すぐに救急車を呼び、医療機関に搬送しましょう。
救急車を待つ間にできる深部体温を下げる方法としては、氷水につけたタオルを全身にあて、体の表面を冷やすアイスタオルがあります。扇風機やサーキュレーターで風を当てると一層効果的です。タオルは常に冷たい状態を保つため、定期的に氷水に浸けて交換する必要があります。
深部体温を効率的に下げる方法には、体幹部(首から太ももあたり)を氷水に浸けて冷やすアイスバス(氷水浴)があります。これは深部体温を直腸などで測りながら行う治療で、医師など専門家の下で行います。スポーツ現場では、バケツやホースで水をかけてあげる方法もあります。
子ども・高齢者の熱中症と深部体温
子どもは体が小さく環境の影響を受けやすいうえに、発汗能力が未発達で、暑い環境では深部体温が上昇しやすく、熱中症には特に注意が必要です。
子どもの熱中症は周囲の人が、顔色や汗のかき方を注意してみることが重要です。子どもの熱中症は屋外や炎天下で運動などの活動をしていて、短時間で発症する「労作性熱中症」がほとんどです。暑い環境で長い時間過ごす場合には、適宜、涼しい場所での休憩と、十分な水分・適度な塩分補給を行ってください。
子どもの顔が赤く、大量に汗をかいている場合には深部体温が上昇していることが考えられるため、すぐに涼しい場所で体を冷やし、水分や塩分を補給するようにしてください。
高齢者は温度に対する感覚が弱くなったり、体内の水分量が減少していたりするだけでなく、若年者と比べて熱放散能力が低いことで、深部体温が上昇しやすくなっています。高齢者の熱中症は暑い日が続き、室内にいても徐々に悪化していく「非労作性(古典的)熱中症」が多くなります。高齢者は自分自身で熱中症に注意するのはもちろん、周囲の人が気にかけ、熱中症の予防・対策を行うことが大切です。
年代・活動レベル別の休憩や水分補給の目安については、「熱中症セルフチェック」もご活用ください。
深部体温と睡眠、夜間熱中症
熱中症を予防するためには、暑さに負けない体作りが大切です。日ごろから適度な運動、適切な食事、十分な睡眠をとるようにしましょう。睡眠環境を整えることは、寝ている間の熱中症を防ぐと同時に、日々ぐっすりと眠ることで翌日の熱中症予防につながります。
深部体温と睡眠
体温は24時間単位で変動しています。1日の中では早朝が最も低く、しだいに上がり、夕方が最も高くなって、夜になると下がり始めます。
夜は体を休ませるために体温が下がりますが、深部体温が適切に下がることで、深く眠ることができるようになり、脳と体を休ませることにつながります。
眠りにつく時は、動静脈吻合のある手足から熱を逃がし、深部体温を下げることで深い睡眠に入っていきます。寝つきを良くするためには、スムーズに深部体温を下げられるように体温の調整や環境の準備をしておくことが重要になります。
夜間熱中症を防ぎながら、良質な睡眠をとるためには
夏の夜間熱中症を防ぎながら、良質な睡眠をとるために3つのポイントがあります。
なお、寝ている間にも水分は失われるため、寝る前に水分補給をしたり、枕元に飲料を置いたりしておきましょう。
①就寝の1~2時間前にぬるま湯に浸かる
就寝の1~2時間前までにぬるめのお湯で入浴することで、自律神経を整え、良質な睡眠につながります。
また、湯船に浸かると、適度に汗をかき、暑熱順化にもつながります。暑い時期でもシャワーのみで済ませず、湯船にお湯を張って入浴しましょう。入浴前後には、水分補給を忘れずに。
②寝室を涼しくする
昼間に建物が暖められると、夜になって外の気温が下がっても、室温がなかなか下がらない場合があります。締め切った室内では、人の出す熱によって夜間に室温が上がってしまう場合もありますので、適切に冷房機器を使用し、快適な睡眠環境を作りましょう。寝るために寝室に入る少し前に冷房機器をつけ、部屋を涼しくしておくことで、スムーズに寝入ることにつながります。
また、途中で冷房機器を停止するとその後室温が上がり、寝苦しさから夜中に目覚めてしまうこともあるため、一晩中冷房機器をつけておくことをおすすめします。風は直接体に当たらないように調整しておくと良いでしょう。
③通気性のよい寝具・衣服を使う
汗が蒸発できない状態は寝苦しさの原因となり、睡眠を妨げます。衣服は綿や麻などの通気性、吸水性のよい素材を選び、寝具も同様に通気性や吸水性に優れたものが良いでしょう。
良い睡眠から、日ごろの健康な体づくりを心がけ、熱中症の予防につなげましょう。
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熱中症について学ぼう
【監修】
帝京大学医学部教授
帝京大学医学部付属病院高度救命救急センター長
日本救急医学会評議員・専門医・指導医
熱中症に関する委員会委員 三宅康史 先生