医師が教える災害時の熱中症対策 医師が教える災害時の熱中症対策

予防・対策

近年、夏季の豪雨や台風などによる大規模な風水害が日本各地で発生しています。避難所やボランティアの現場、在宅避難でも、気温や湿度が高くなる時や冷房機器が使用できない時は熱中症に注意が必要です。
ここでは、熱中症対策に詳しい医師の三宅先生に注意点や対策を監修していただきました。災害時の熱中症対策について知り、いざという時に備えましょう。

災害時に熱中症に注意する必要がある理由

災害時、水や電気などの供給が制限されるような状況では、気温・湿度のコントロールやこまめな水分補給が難しくなるだけでなく、慣れない環境でストレスにより体調が変化する、睡眠不足や生活のリズムが乱れやすくなるなど、熱中症を引き起こす要因となる「環境・からだ・行動」のすべての面で熱中症の危険性が高くなります。
特に夏季に災害が発生した際は、熱中症に注意が必要です。また、夏季でなくても、気温や湿度が高くなる時は注意しましょう。


災害時の熱中症対策

豪雨や台風などによる大規模な風水害が起きた際や、地震が発生した際には、自宅を離れて避難所で生活したり、在宅避難や車への避難をしたりすることがあります。
また、被災した場合は、普段行わない災害時の復旧作業という重労働を行います。気温や湿度が高い環境での慣れない重労働は、熱中症になる危険性を高めます。復旧作業はしっかりと熱中症の対策を行い、適宜休憩を取りながら行ってください。
気温や湿度が高くなる時は、いつでもどこでもだれでも熱中症にかかる危険性があることを意識して、熱中症の予防・対策を行うようにしましょう。


  • 水分を補給する

    水分を補給する

    災害時はトイレに行くことを控えるなど水分をとる量が減りがちですが、気温が高くなると脱水状態になりやすいため、意識してこまめに水分をとるようにしましょう。
    特に高齢者は脱水に気付きにくく、こうした影響を受けやすくなります。高齢者の場合、脱水は尿路の感染症や心筋梗塞、エコノミークラス症候群*などの原因にもなるので、しっかりと水分をとるようにしましょう。

  • 「塩分を」ほどよく取ろう

    塩分を補給する

    ライフラインの停止などで電気の使用が制限されると、避難所や自宅で室温を快適に保つことが難しくなります。避難をして室内にいる時や、復旧作業時など、汗をかきやすい状況では水分だけでなく塩分も補給することが大切です。
    ただし、かかりつけ医から水分や塩分の制限をされている場合は、その指示に従うようにしてください。

  • 体を涼しく保つ

    体を涼しく保つ

    室温を快適に保つことが難しくなる状況では、電気を使わずに体を涼しく保つことが大切になります。
    肌から水分が蒸発する時に熱を奪う気化熱を利用して、ネッククーラーと(携帯型)扇風機・うちわなどを組み合わせて体を涼しく保つこともできますし、冷却グッズを使うのも良いでしょう。
    衣服は通気性・速乾性にすぐれた素材のものがおすすめです。

  • 日差しをよける

    日差しをよける

    日中の屋外での作業時や、移動時には、帽子や通気性の良い長袖の衣服などを使って直射日光をよけ、暑さから体を守りましょう。窓から差し込む日光を遮るために、日よけ用のカーテンなどを設置することも良いです。
    体調に異変を感じたら、すぐに周囲の人に知らせ、風通しの良い日かげなどで休むようにしましょう。

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  • 温度や湿度に気をつける

    温度や湿度に気をつける

    室温のコントロールが難しくなる可能性が高いため、自分が今いる環境を把握しておくことが大切になります。温度計・湿度計・熱中症計を使用して、自分のいる環境を知るようにしましょう。
    気温や湿度が高い時や、熱中症計で熱中症危険度が高い時は、自分だけでなく周りの人も熱中症になっていないか特に注意してください。

  • 家族や周囲の人の体調を気にかける

    家族や周囲の人の体調を気にかける

    避難所や自宅、車などで避難をしている時の体調管理は、家族や周囲の人とお互いに声を掛け合うことが大切です。避難先でも周囲の人と適度なコミュニケーションをとり、お互いの状況を知っておくと良いでしょう。
    少しでも不調を感じた時は、すぐに周囲の人に伝えるようにしてください。特に高齢者の場合は、温度に対する感覚が弱くなり、汗をかく能力も衰え、体内の水分量も減少しているため、屋外だけでなく、室内でも熱中症にかかりやすくなります。重症化を防ぐためにも、周囲の人と一緒に体調を確認することが大切です。

食事や活動を制限すると、エコノミークラス症候群*も心配です。可能な範囲で軽い体操やストレッチを行い、なるべく風通しの良い服装で過ごし、十分な水分と適度な塩分を補給するようにしてください。
災害時は体調を崩してもすぐに対応できない場合もあります。少しでも不調を感じた時は、すぐに周囲の人に伝えるようにしましょう。


  • * エコノミークラス症候群:食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり、血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります。突然発症の呼吸困難、失神、頻脈、ショックなどが主な症状です。


災害に備えて準備しておきたい熱中症対策グッズ

災害時に備え、日頃から十分な備蓄をしておく必要がありますが、熱中症対策グッズとしては、水分・塩分を補給するもの、体を涼しく保つもの、自分の今いる環境を知るものを準備しましょう。

熱中症対策グッズ

その他、災害に備えて準備しておきたい熱中症の予防・対策行動

熱中症対策グッズ以外にも、体を暑さに慣らすこと(暑熱順化)や家族との連絡方法の確認も事前にしておきましょう。


  • 暑熱順化

    暑熱順化

    熱中症の予防には体が暑さに慣れていること(暑熱順化)も大切です。
    暑さが本格化する前や、体が冷房に慣れている状態で突然ライフラインが止まって暑い環境になると、体が暑さに慣れておらず、熱中症になる危険性が高まります。
    日頃から運動や入浴などで適度に汗をかき、体を暑熱順化している状態にしておきましょう。

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  • 家族との連絡方法の確認

    家族との連絡方法の確認

    家族と一緒に住んでいる場合も遠方にいる場合も、災害時の連絡の方法を決めておくことが大切です。
    避難先に向かう前に事前に連絡し、その後の連絡方法についても伝えておくと、家族同士で熱中症の予防を含め、見守りがしやすくなります。


新しい生活様式下での注意

感染症対策がとられる際も、熱中症に注意しましょう。

※新しい生活様式下での熱中症対策は、今後新たな知見や研究結果によって変化する場合があります。


  • マスク着用時の注意

    マスク着用時の注意

    暑い環境でマスクをつけて生活や活動をしていると、呼吸による放熱が妨げられたり、呼吸に負担がかかったりすることで、体温の上昇を抑えることが難しくなると考えられます。
    また、マスクをしていることでこまめな水分補給が妨げられ、水分の摂取量が減ってしまうこともあるでしょう。
    マスクをつけている時は意識して体の熱を逃がすように冷却グッズを活用し、水分をこまめにとるようにしましょう。

  • 三密を避けることによる注意

    三密を避けることによる注意

    感染症予防の観点から、災害時も周囲の人とのコミュニケーションが減少することも考えられます。
    コミュニケーションが減少することで、体の不調を伝えることができず、熱中症やそれ以外の体調不良につながることもあります。
    熱中症について知り、予防・対策を行いながら、体調に不安を感じた時は周囲の人や、医療機関・行政担当者などに伝えるようにしましょう。自分や周りの人が不調になった際に、どこに伝えるべきか事前に確認しておくことも大切です。

熱中症ひとことメモ熱中症ひとことメモ

車での避難をする場合、密閉された車内では、直射日光によって短時間で車内温度が上昇する場合があります。暑さ対策として、車を日陰や風通しの良い場所に移動する、断熱シートを設置する、防虫ネット等をつけたり、車用網戸を張ったりして風通しを良くするなどがあります。
また、短期間で建てられるプレハブ仮設住宅などは、断熱効率が良くない場合があります。夏の直射日光によって暖められ、室内の熱中症危険度が上がることも考えられますので、積極的に換気を行い、冷房機器がある場合には適切に使用して、室内を快適な環境に保ちましょう。窓際からの日光による室内の温度上昇を防ぐため、カーテンや日よけ、植物による緑のカーテンなども活用すると良いでしょう。

専門家による解説

  • 三宅康史先生

    三宅康史先生
    帝京大学医学部教授
    帝京大学医学部付属病院高度救命救急センター長
    日本救急医学会評議員・専門医・指導医
    熱中症に関する委員会委員

    高温多湿や風通しが悪くなりやすい避難所では、熱中症のリスクが高まります。被災地は水が不足しがちで、清潔なトイレを確保することも難しい状況になりますので、被災された方々は水分補給を控えてしまいがちです。熱中症の予防には、十分な水分補給と体を冷やすことが大切です。汗をたくさんかいた場合にはタブレットなどで塩分補給をすることも重要ですが、食事で十分な塩分を摂取できていれば、水や麦茶などで水分補給するのみでも構いません。体を冷やすには、通気性の良い服を着て、扇風機などの風を当てましょう。
    車で避難生活をする場合は、体調変化、特にエコノミークラス症候群には気をつけましょう。また在宅避難をする場合は、ライフラインが制限されていると周囲の状況を正確に把握することが難しくなります。周囲の人と声をかけあい、体調管理を行ってください。
    私は、個人でできる熱中症の予防で大切なのは、「自己管理」であると考えます。日頃から自分の体調がどんな状況にあるのかを把握し、無理をしすぎないこと。これは平時でも災害時でも同じです。また、高齢者など自分で体調を管理することが難しい人には、災害時は特に、家族や周囲の人とお互いに声をかけあうことが有効です。平時から遠方の家族との連絡方法を確認しておき、災害時の見守りに活かしてください。
    そのほか、復興支援を行うボランティアの方々も熱中症に注意が必要です。高温の屋外で作業をする際には、十分に休憩を取り、水分・塩分の補給を必ず行うようにしてください。不慣れな作業を行う場合は、体に大きな負荷がかかっていることもあります。気分が優れない時はすぐに周囲の人に知らせ、休憩を取るようにしましょう。

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【監修】
帝京大学医学部教授
帝京大学医学部付属病院高度救命救急センター長
日本救急医学会評議員・専門医・指導医
熱中症に関する委員会委員 三宅康史 先生