熱ゼロ研究レポート:夏場の農園におけるWBGT観測調査
レポート No.16夏場の農園におけるWBGT観測調査
「熱中症ゼロへ」プロジェクトチーム
農業の現場では日ざしの降り注ぐ屋外や、作業小屋などの屋内、ビニールハウス栽培などの環境においても高温・多湿となりやすく、常に熱中症対策が求められます。 「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、全国農協青年組織協議会(JA全青協)協力のもと、農地でのWBGT測定と、農業従事者の方へのインタビューを行いました。屋外の露地栽培、作業小屋、ビニールハウス内など異なる作業環境でのWBGTの推移や、働き方の変化を通して、暑い時期の農作業の注意ポイントや対策について確認していきましょう。
調査サマリー
- ■暑さのピークは12:00~14:00で、日最高WBGTは両農園とも35.7℃を記録した。農作業は、この時間帯を避け、主に早朝を中心に行っていた。
- ■インタビュー先の両農園では、周りの環境に合わせて複合的な熱中症対策を実施していた。暑さ対策グッズの活用に加え、作業内容や体調に応じて、時間の調整や休憩計画を立てることが大切。
- ■1人で作業する場合や離れた場所にいる時でも、定期的に連絡を取り合い、互いの体調を見守る体制づくりが重要。
協力先


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● 塩久園
塩野 雅之さん
JA埼玉県青年部協議会 委員長埼玉県三芳町でトウモロコシ、カブ、大根、白菜、ブロッコリーなどを栽培。
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● 荒井農園
荒井 俊一さん
JA東京青壮年組織協議会 委員長東京都調布市でピーマン、ナス、モロヘイヤ、ネギ、トマト、キュウリなどを栽培。
観測概要
● 塩久園
- 日時:
- 2025年8月20日(水) 7:00~16:00頃
- 場所:
- 埼玉県三芳町
- 天候:
- 晴れのち曇り、最高気温 36.6℃(最寄りの観測地点 所沢にて観測)
- 環境条件:
- ①露地(土の上)、②作業小屋(窓開放、扇風機2台稼働)
● 荒井農園
- 日時:
- 2025年8月22日(金) 7:45~16:00頃
- 場所:
- 東京都調布市
- 天候:
- 晴れ時々曇り、最高気温 36.4℃(最寄りの観測地点 府中にて観測)
- 環境条件:
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①露地(土の上)
②ハウス内(半透明メッシュ生地、空気循環設備2台、ミスト散布管稼働、遮光シートあり)
塩久園でのWBGT推移
露地では、日ざしや風の影響を受けやすく、時間ごとの変動幅が大きい結果となりました。日ざしが強まった10:00~13:00頃にはWBGT31℃以上の「危険」ランクの時間帯が多く見られ、12:13に最高値35.7℃を記録しました。一方で、直射日光の遮られた作業小屋では、WBGTの変動幅は比較的小さく、多くの時間帯で露地よりも低い値で推移しました。ただし、露地とほぼ同時刻の12:25には32.1℃を記録し、「危険」ランクに達する時間帯もありました。
13:00以降は雲が広がりはじめ、露地、作業小屋ともWBGTは緩やかに低下しましたが、この時間帯はいずれも「厳重警戒」レベルと、日ざしがなくても油断はできない状況でした。

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散水
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パイプ挿し
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小カブの播種作業
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トラクタによる耕耘作業
荒井農園でのWBGT推移
塩久園と同様、露地では日ざしや風の影響を受け、時間ごとの変動幅が大きい結果となりました。露地の日最高WBGTは14:03に35.7℃を記録しました。ハウスでは、空気循環設備2台とミスト散布管を稼働させ、ハウスの壁面には遮光シートをつけて測定しました。暑さの立ち上がりは露地より遅くなりましたが、日差しがある程度差し込む環境であったことから、時系列変化は露地と似た傾向をとりました。
なお、11:00頃および13:00頃には雲が広がったため、露地・ハウスともにWBGTは一時的に30℃前後へと下降しました。14:45以降は、周囲の建物により日ざしが遮られ、WBGTの変動は比較的穏やかになりましたが、露地・ハウスともに「厳重警戒」のランクで推移していました。

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露地での収穫作業
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草刈り
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ウェアラブルデバイスの活用
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メッシュ生地のハウスで通気性を確保
ポイント
- ・作業は朝や夕方など、なるべく涼しい時間帯に行いましょう。
- ・天気予報や暑さ指数(WBGT)の情報を事前に確認し、体調や作業量に合わせて、無理のない計画を立てるようにしましょう。
- ・屋外での作業は、直射日光に特に注意が必要です。帽子や暑さ対策グッズを活用し、こまめに涼しい環境で休みましょう。
- ・ハウス内や、作業小屋などの屋内であっても、高温多湿、風通しが悪い環境では熱中症に注意しましょう。設備の見直しや、換気や遮熱対策など複合的な対策を意識することも大切です。
農業現場における働き方インタビュー
観測にご協力いただいた2か所の農園ご担当者に、夏の農作業の実情や、日頃から実施している暑さ対策についてお話を伺いました。塩野さんは、1.5haの畑を管理し、とうもろこしや枝豆、葉物野菜などを中心に、お一人で露地野菜の栽培に取り組まれています。荒井さんは、東京都調布市で89aの畑とハウスを活用し、きゅうりやトマトなどの多品目野菜を、家族やパートの方を含む複数人の体制で栽培されています。
太陽熱消毒は、狙った温度(50~60℃)に達しないと効果が発揮されず、7月後半~8月頭の暑い時期に行う必要があり辛く感じます。また、土内の水分が逃げないうちに作業が必要なため、暑い中で気持ちも焦ります。土壌が渇いている時は、水まきが午前の作業に追加されますし、草むしりも夏場は大変です。
※太陽熱消毒とは、土にビニールを被せて、太陽光による土壌内の温度上昇を利用し熱で殺菌、虫よけをすること。中途半端な時期に実施すると、温度が上がり切らず雑草の原因にも。

農薬散布の作業です。週1回のこの作業は空調服が着られず、かつマスク着用必須のため、熱が体にこもりやすいです。また、散布機のエンジン音が大きく、早朝には作業できないため、9:00〜10:00の暑くなりはじめの時間帯に限定されます。また、草むしりもこまめに行わないと秋の種まきに影響するため、パートさんと二人でかがみながら作業しますが、建物の影響で風通しが悪く感じる時もあるので注意しています。
コラム 農畜産物への影響は?

写真提供: JA全青協
暑さによって、ここ数年で働き方に変化はありましたか?

夏場の作業は、基本的に朝から昼前に済ませ、午後に動くのは繁忙期に限られます。一人作業のため体調や作業量に合わせて時間を調整し、無理をしないように心がけています。扱う品目数も調整しつつ、品質を落とさない工夫をしています。

夏場は1日の作業時間そのものを減らし、パートの方には午前中のみ作業して帰宅してもらうなど、人員配置で作業量のバランスを調整しています。安全確保のため、WBGTが28℃を超えたら作業内容や時間を見直す基準を設け、体調に合わせた柔軟な対応も欠かせません。
普段されている暑さ対策・設備はありますか?

空調服や帽子の着用、こまめな水分補給、休憩時にしっかり休むことなど、基本的な対策を行っています。倉庫には冷蔵庫があり、頻繁に水分補給ができる環境です。倉庫内には気温計や扇風機、スポットクーラーを10年以上前から導入していて、天井が高くクーラーが効きにくい環境でも体に直接風を当てて暑さをしのいでいます。また、携帯を持って作業に出る人が昔よりも増えたと感じます。隣の畑の農家さんともこまめに声を掛け合うことを心がけています。

ネッククーラーの着用やこまめな水分補給、休憩頻度の増加、自治体の行う熱中症対策セミナーへの参加なども取り入れています。今年からはパートさん向けに空調服・保冷剤付きベスト・ウェアラブルデバイスの3点を貸与しています。ハウスではメッシュ生地を使用や、遮光カーテンの設置、空気循環設備、ミスト散布管を整備し、農作物の品質維持の目的と合わせて、暑さ対策を徹底しています。
ポイント
- ・一緒に作業する仲間や家族との声をかけをこまめに行いましょう。1人で作業する場合や離れた場所にいる時も、定期的に他の誰かと連絡をとったり、ウェアラブルデバイスなども活用してお互いの体調を見守る環境づくりを心がけましょう。
- ・暑さ対策グッズを積極的に活用しましょう。水分・塩分補給のための飲料や食品を常備する、タープなどで直射日光を避けるられる空間を作る、通気性の良い衣服や冷却機能付きのウェアを着るなど目的に合わせて準備することが重要です。
- ・農業従事者の方だけではなく、家庭菜園を楽しむ方も同様に注意しましょう。

■塩野さんと荒井さんからメッセージ


客観的な休憩指標を上手に活用し、こまめな休憩と暑熱対策グッズで、暑い季節を安全に乗り切りましょう。
今回ご協力してくださった全国農協青年組織協議会(JA全青協)の皆さん、誠にありがとうございました。「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、農業をはじめとする、熱中症に注意が必要な環境で働く方々に向け、今後も熱中症対策について調査・情報発信を続けていきます。




また熱中症に注意が必要だと感じますか?