熱ゼロ研究レポート:仮設住宅の熱中症リスクは?熱ゼロ研究レポート:仮設住宅の熱中症リスクは?

レポート No.2 夏の仮設住宅内の環境調査

「熱中症ゼロへ」プロジェクトチーム
夏の仮設住宅内の環境調査

仮設住宅の過ごしやすさは?

  東日本大震災から4年以上が経ちました。今もなお、避難生活をされている方は18万人以上おり(復興庁データより)、仮設住宅での生活を続けている方も多くいます。仮設住宅と聞くと、夏は暑く冬は寒い、厳しい環境を想像する方も多いのではないでしょうか?夏は熱中症のリスクも気がかりです。
  そこで今回の熱ゼロ研究レポートでは、熱中症ゼロへの後援自治体である福島市にご協力いただき、夏の仮設住宅内の環境調査を行ってきました。

被災地の双葉郡浪江町と、避難先の福島市の気候のちがい

今回の調査では、福島市北幹線第一応急仮設住宅の自治会にご協力いただきました。

サムネイル2

自治会会長の菅野栄一さんは、福島県双葉郡浪江町で被災され、現在は福島市で生活されています。
浪江町は太平洋に面した福島県の東側に位置し、夏は涼しく冬は暖かな気候です。
  一方福島市は、福島盆地の中にあるため、夏は気温が上がり、とても暑くなります。菅野さんを含め、この仮設住宅には浪江町沿岸部から来た方が多く、福島市の暑さに驚かれたそうです。

浪江町、福島市、さらに東京都千代田区の7〜8月の最高気温(2015年の日変化・平年値)を比べてみると、次のことがわかりました。

浪江町、福島市、さらに東京都千代田区の7〜8月の最高気温(2015年の日変化・平年値)グラフ

・浪江町は福島市より涼しい傾向
  平年値で見ると、浪江町の最高気温は福島市よりも2℃程度低くなっています。また、今年の日ごとの値を見ても、全体として福島市より涼しい日が多いです。
・福島市と東京の最高気温は同程度
  福島市と東京の最高気温の平年値を比べると、7月中は福島市の方が1℃ほど低いですが、7月末から8月頭にかけてはほぼ同じとなっています。今年の日ごとの値を見ても、福島市は東京と同じかそれ以上になる日もあることが分かります。つまり、8月の福島市は東京並みに暑いといえそうです。
  菅野さんの自治会内でも、震災直後初めての夏は、みんな暑さに慣れていない中で福島市の暑い日が続き、とても大変だったそうです。
  熱中症は、体が暑さに慣れていない状態だとより発症しやすくなります。菅野さんの自治会でも、震災後の2011年には4人の方が熱中症で救急搬送されたそうです。その後、暑さへの慣れや啓発活動の効果、生活環境の改善もあり、2012、2013年の救急搬送者は2人に減り、2014年はゼロになったとのことでした。

ポイント

それでは、実際に菅野さんのお宅での夏の室内環境を見ていきましょう。

仮設住宅の室内環境を調べよう

サムネイル3

  菅野さんのお宅は長屋のような造りをした仮設住宅になります。中は寝室とリビングの2部屋に分かれており、それに水回りがついています。2部屋ともエアコンが設置されており、風通しも良く、少々手狭ではありますが、想像していたよりも過ごしやすそうな空間となっていました。今回の調査では、リビングに温湿度計を置かせていただき、気温・湿度を計測しました。(直接風の当たらない、人の頭の高さくらいの位置で計測)

① 梅雨の時期(7月7日)の室内環境

熱中症は、気温が高い盛夏だけでなく、湿度が高い梅雨の時期にも多く起こります。とくに梅雨の晴れ間で蒸し暑くなるときなどは搬送者数が増加しています。 まずは、そのような条件の日のデータを見ていきましょう。
7月7日の福島市の天気は曇り一時晴れ、最高気温は29.5℃となりました。
仮設住宅の室内気温を見てみると、1日を通して外の気温より高く、昼過ぎには30℃に達している時間もあります。
気温が28℃を超えると体への負担が大きく、熱中症の危険も高くなるといわれていますが、この日は11時ごろから20時過ぎまで室内気温28℃以上が続いていました。7月上旬で、まだクーラーの使用には至らなかったようですが、室内は外よりも暑く、過ごしにくい環境となっていました。

梅雨の時期(7月7日)の室内環境グラフ

ポイント

② 盛夏(7月26日)の室内環境

  梅雨明け後、暑さが本番を迎える盛夏の時期は、熱中症の搬送者数が一年で最も多くなります。その時期のデータを見ていきましょう。

  東北南部の梅雨明けが発表(速報値)された7月26日、福島市では最高気温は35.6℃で猛暑日となりました。
  菅野さんのお宅では、9時から21時の間、エアコンを使用しており、外気温の上昇に対して、室内気温の上昇は抑えられていました。エアコンを使用している間は、室内気温は28℃前後となり、日中、外の気温がぐんぐん上昇し、35℃を超えたのに対し、過ごしやすい環境が保たれていたことが分かります。

盛夏(7月26日)の室内環境グラフ

ポイント

熱中症の危険度をチェック

  それでは、ここで7月7日と7月26日の室内での熱中症の危険度を見てみましょう。
  気温、湿度、輻射熱から計算され、暑さの指標となるWBGT値を利用した熱中症危険度ランクで見ると、日中の6時から18時の間で、7月7日は警戒となる時間帯が44%、7月26日は警戒となる時間帯が36%で、エアコンを使用しなかった曇りの日の方が、エアコンを使用した猛暑日より熱中症の危険度が高い時間が長かったことが分かりました。

熱中症の危険度をチェックグラフ

  熱中症は室内にいても発症することがあります。晴れて暑くなる日に気を付けるだけでなく、曇りで外がそれほど暑くない時であっても、室内気温や湿度に注意しましょう。また、晴れて暑い日でも、エアコンを使用することで熱中症の危険性を下げ、快適に過ごすことができます。

ポイント

夏の過ごしかたのポイント

  今回の熱ゼロ研究レポートでは、夏の時期の仮設住宅内の環境を調査しました。調査の結果、仮設住宅であっても、エアコンを適切に利用することによって、熱中症の危険性の少ない環境にすることができるということが分かりました。
  • 仮設住宅であっても、エアコンを使うことで、熱中症の危険を避けることができる。
  • 曇りの日でも室内の気温や湿度が上がれば熱中症の危険性が高まる!
  • エアコンを上手に使って熱中症を予防しよう!
  調査にあたり、ご協力いただきました福島市北幹線第一応急仮設住宅自治会長の菅野さん、自治会の皆様、福島市の担当者様に心より感謝し、深く御礼申し上げます。最後になりましたが、現在も仮設住宅で生活されている方、被災された方におかれましては、一刻も早く震災前の生活に戻れますことを願っております。熱中症だけでなく、お体にお気をつけて、季節を問わずご自愛ください。