熱ゼロ研究レポート:水辺の動物も熱中症にかかるの?熱ゼロ研究レポート:水辺の動物も熱中症にかかるの?

レポート No.6サンシャイン水族館の飼育員さんに聞いた
「水辺の生き物」の暑さ対策レポート

「熱中症ゼロへ」プロジェクトチーム

最近、「熱中症ゼロへ」プロジェクトに、「ペットの熱中症」「動物の熱中症」についての問い合わせや質問をいただくことがあります。熱中症予防アイテムも、人間のものだけでなくペット用品でも様々なものが出ています。お散歩中に、舌を出して激しく息をしている犬を見かけると、人間だったらかなり危険な状態では?などと心配になることも。

そんな中、「水辺にいる動物」の屋外展示施設がリニューアルされたというニュースを耳にし、池袋にあるサンシャイン水族館(http://www.sunshinecity.co.jp/)に行ってきました。動物の中でも、水辺で涼を取れる動物たちは果たして熱中症になるのでしょうか?

飼育スタッフの方にインタビュー

お話を聞いたのは、サンシャイン水族館の
松戸利久さんです。

ペンギンも熱中症で
ごはんが食べられなくなる?!

Q水辺の動物も熱中症にかかることはありますか?

A ありますよ! 人間と似たような症状が出て、体調不良になる場合があります。元気がなくなる、食欲が落ちる、血色が悪くなる、脱水症状になる、などですね。ケープペンギンの場合は目の上のピンク色の部分がピンクから濃い赤に変わっていたり、口を開けて呼吸をしていたら、危険な証拠です。

目の上がピンクなケープペンギン

毎日お世話をしている飼育員さん
だからこそ読み取れる
体調の変化ですね!

ポイント

ペンギンのように動物特有の特徴的なサインもありますが、基本は人間と同じような不調が出るのですね。人間も、周りの人が様子を見ていて気付いてあげることが大切です。

のどや足で体温調整する動物って?

Q動物によって暑さに強い、弱いはありますか? また、どのように体温調節をしているのですか?

A 暑さに強いのは、カリフォルニアから来たアシカや、東南アジアから来たコツメカワウソですね。比較的弱いのは、ペンギンです。
水辺の生き物は、水中で放熱したりして体温を調整しています。

アシカは、暑いとヒレを水上に出したりすると言われていますが、飼育下ではあまり見かけないので、そこまで暑くないようですね。モモイロペリカンは、足の水かきから放熱したり、のど袋をパタパタさせて体温を調整します。水かきやのど袋には毛細血管がたくさんあるので、ラジエーター(※)のような働きをします。

※ラジエーター 自動車エンジンなどの冷却装置。冷却水から大気に放熱させる。

下から見るモモイロペリカン

水かき部分を日に透かして見ると、
うっすらと毛細血管が見えます。
特徴である大きなのど袋も、
是非チェックしてみて!

ポイント

血管が通っているところを冷やすことで、体温を効率的に下げることができるのは、どの動物も同じです。人間なら、わきの下や足の付け根ですね。

コップでゴクゴクできない動物は
どうやって水を飲む?

Q熱中症のような症状になったらどのように対処するのですか?

A 人間と同じように、食べ物や飲み物から水分を摂らせたり、点滴をすることもあります。

海の動物であるアシカやペンギンは、海水につけた魚などの餌から水分や塩分を摂取します。脱水症状が見られる時には、電解質を餌に注入して摂らせることもあります。コツメカワウソは、淡水の動物ですが飲み水を設置してあるので、そこから水を飲みます。たくさん飲むので、切らさないようにしていますよ。
モモイロペリカンで、実際に熱中症のような症状が出たこともありますが、その時は点滴をしました。

淡水に住むコツメカワウソ

サンシャイン水族館では、
水中の様子も陸上の様子も
間近から観察できます。

ポイント

人間も動物も、飲料だけでなく、食べ物からも水分や必要な栄養をとることを意識しましょう。

日陰が好き?ミストが好き?
ペンギンの好みに合わせて休憩

Qリニューアルした屋外展示ですが、暑さ対策にされている工夫はありますか?

A 水温を0.1度刻みで自動調整できる仕組みを取り入れました。
フラクタルで日陰(※)を作ることはリニューアル前から継続して行っている対策ですね。

必ず日陰が作ってあります。“天空のペンギン”は、来場者からは見えないところに日陰が作ってありますが、水中にいる方がペンギンにとっては暑くありません。“草原のペンギン”は、草陰や滝、ミストが設置してあるので、そこで涼めるようにしてあります。ミストに加えて、スタッフがシャワーをかけてあげることもあります。

※フラクタル日除けとは 幾何学模様を利用した、風や日光を通す構造の日除け。

ミストがお気に入りのペンギン

柵のそばにうずくまっている
ペンギンは、柵の前に設置された
ミストが大好きで、ここがお気に入りの
定位置なのだそうです。

ポイント

本来、自然で生活している動物たちなので、自然に近い形で温度調整ができるような工夫がされていました。

普段見られないところを
のぞかせてもらいました

Q展示で気を付けているポイントは何ですか?

A 天空のペンギンのように、お客様から見て楽しいだけでなく、動物にも過ごしやすい環境づくりを目指しました。

暑さ対策もそうですが、寒さ対策や、休憩の取りやすさなども可能な環境を考えています。天空のペンギン水槽で泳いでいるペンギンは夜間には皆、眠るために水槽から上がってしまいます。
17時以降の水槽にはあまりペンギンがいないときもあるかもしれませんが、それもすべてペンギンが自由に動いているからこそなんです。

※フラクタル日除けとは 幾何学模様を利用した、風や日光を通す構造の日除け。

天空のペンギンの水槽脇で
休憩中のケープペンギン

フラクタルの日除けが設置され、
床はペンギンの足を傷つけないために引
いた砂利と、熱くならないようにパイプに
穴を空けて水が出るようになっています。
奥に見えるのは、繁殖用の巣箱です。

※フラクタル日除けとは 幾何学模様を利用した、風や日光を通す構造の日除け。

ポイント

動物が本能で持っている予防アクションを、無理なく取ることのできる環境づくりがされていれば、熱中症は防げるということがわかりました。

インタビューでわかったこと

  • 動物も人間と同じように、熱中症のような症状で不調になる。
  • 水辺の生き物は、水を使って上手に体温調節をして暑さ対策している。
  • 水分は、“飲む”だけでなく“食べる”で摂取。
  • できるだけ自然に近い環境で涼が取れる工夫がたくさんされていた。